宮木あや子 香港旅行記

 香港は、近いです。4時間かからないで着いてしまう異国。こんなに近いのに、今まで訪れたことがありませんでした。
 香港に住んでいたことのある友人に、何か注意事項などはあるか、と尋ねたら、イギリス領だったわりに意外と英語が通じない、という衝撃の事実を教えられました。中国語、喋れません。困ったなぁ、と思いつつも、何も準備しないまま出発の日がやってまいりました。

 午前11時の飛行機でした。2時間前にチケットの引き換えを行わなくてはいけません。9時に空港に着くためには、武蔵野を7時に出なければなりません。しょぼしょぼしながら家を出て、意識のないまま新宿から成田エクスプレスに乗り継ぎ、成田空港の香港行きチェックインカウンターで40分並び、その時点で既にへとへとでございます。他のカウンターは全く並んでないのに、香港行きだけ。日本人ってそんなに香港が好きなんでしょうか。
 お母様は海外旅行が初めてなので、その行列を見た時点で、海外へ行くのはこんなに大変なことなのだ、という刷り込みがされてしまったようです。本当はもっと楽です。あんなに並んだのは私も初めてでした。余談ですが最近、パスポートにICチップが導入されたのをご存知でしょうか。厚紙が邪魔をして丸めてポッケに突っ込むことができなくなり、大層不便でございます。
 話を戻します。驚いたことに機内食が大変美味しゅうございました。そして、慣れない飛行機と慣れない機内食で、顔面蒼白になって飛行機酔いを起こしたお母様のために、こまめにアテンダント(たぶんチーフパーサー)が様子を見に来てくれました。サービスもとっても良いです。
 香港に到着する頃にはお母様の具合もだいぶ良くなりました。自分が酔わないので、何も持ってなくて焦りました。次からは薬の中に酔い止めも入れておこう。
 税関を経て外に出て、「宮木様」の札を持った人を探すと、いかにも中国風の、痩せた男の人が札を持って待っていました。今回、私とお母様の2人だけのためにガイドがついて、車も私たちだけのために1台なんだそうです。すごーい! なんて贅沢!
 香港の空港は、私たちがメディアで見るような「THE・香港」からは遠く離れた場所にあるので、車で暫く走って、「THE・香港」へ向かいました。とにかく高層マンションだらけです。途中まではシンガポールと同じような街だと思っていたのですが、街中に入るにつれて、それは似て非なる街とわかるのでした。建設中の建物が多く、何処も彼処も工事中です。驚いたことに、足場が竹でした。どんなに高い建物(60階とか)でも、足場は全て竹。鳶職人は慣れてるから恐くないんだろうけど、見てるこっちの方がおっかないですよ!
 街中に着いて、お花屋さんと鳥屋さんに行って、暫く散策してからホテルに向かいました。
 ホテルは九龍側の、リーガルカオルーンホテルという、香港のリーガルホテルチェーンが持っているところでした。7階のお部屋の窓からは広場が見えます。下町風情溢れていますが、界隈は結構栄えているところらしく、いかがわしいお店や、庶民向け飲食店などが軒を連ねていました。
 お部屋で一休みしたら、すぐに夕食。ホテルの近くの潮州料理屋さんです。北京とか広東とか四川とかはよく聞くけど、潮州料理なんてカテゴリがあったのか、と初めて知りました。結果、あまり中華料理に興味のない私とお母様は、他の「北京広東四川」との味の違いは全く判らず。ただ、チンゲンサイの炒めたのは美味しかったです。あと、これまで嗅いだことのない匂いのお茶が出てきたのですが、それは水仙のお茶だそうです。水仙ってお茶になるのね。
 食べ終えたときはお腹がはちきれそうでした。これ絶対太る。そう思い、便秘予防のため近くのセブンイレブンで牛乳とヤクルトを購入して、あと珍しい黒豆ミルクドリンクみたいなのも購入して、早速呑んでみました。 でもこの黒豆の皮と思われる粉っぽさがなんかあと引くー! 止まらなーい!
 ブランドは蒙牛(もうぎゅう:モンゴルから輸入してるらしい)。香港に行かれる予定のある方は猛牛(?)にご注意くださいませ。
 夜は、8時くらいからオプショナルツアーで、100万ドルの夜景という言葉で有名なヴィクトリアピークに登り、上からの夜景を観てきました。これは後に書きますが、ちょっと残念な結果になってしまいました。詳細は2日後。


 朝ご飯は、ニューワールドセンターというビル内の中華料理屋でお粥定食でした。鳥とピータンと生姜か何かが入ってるお粥と、海老団子のスープ。そしてお茶はまたもや水仙。
 そしてそこから暑いよ暑いよと言いながら港へと歩いている途中、有名なペニンシュラホテルの前を通りました。次に来るならここに泊まりたいなぁと思う超ステキホテルでした。なんとなく、横浜のニューグランドっぽい外観。そこからもう少し歩くと、フェリー埠頭が見えてきます。今日はこれから香港島に渡って、香港観光。
 私、海が恐いくせに船が大好きなので、船に乗れると思うと無条件に喜んでしまいます。スターフェリーという、日本でいえばシーバスみたいなのに乗って香港島へ渡っている途中、大喜びで一番端っこの席で写真を撮っていたら、突然向かい風と大粒の雨が。一瞬にしてずぶ濡れでございます。船に乗る前までは青空だったのに、お天気変わりやす過ぎですよ香港。
 香港島に着いても雨は止まず、雨足が遠のくまで本屋で雨宿りをしました。『ブリジット・ジョーンズの日記』はやっぱりどこでも人気みたいです。
 雨が止んでからお寺を見て、骨董品屋の通りを見て、蚤の市を見て、なんだかものすごくハデなオブジェのある海岸(チンソイワン)にも行きましたが、私が暑さにバテて半ばダウン。お母様は一人で海岸の端まで行って戻ってきて、どこもアジア人ばかりなので外国風情がない、とちょっと寂しそうでした。日本にはこんなハデなオブジェのある海岸はありませんよお母様。
 スタンレーマーケットという、これまた怪しげな、シアトルのパイクプレイスマーケットのような、こまごましたショッピングストリートにも行って、ペンネームの花文字を書いてもらってきました。綺麗です。これで小説のお仕事ががっぽがっぽ来ますように! と思って裏の説明書きを見たら、効力を発揮してくれるのは「美:幸福:祝福:権力:繁栄:可愛」。ていうか先生! 一番重要な「成功」が足りません! あと「愛」も!
 お母様は、シルクの変な形のバッグを購入してご満悦。ただ、香港は少し物価が高いです。私、アジアでは相手が言い出さない限り極力値切らないで買い物をするのですが、申し訳ないけど今回は値切らせていただきました。高い。
 お昼は、お待ちかねの飲茶ですよ。本格中華は苦手だけど、飲茶はツルっと入っちゃう、という女子は多いと思います。私もです。海老餃子、焼売、角煮まん、焼きそば、どれもこれも美味しくてあっという間に食べちゃったけど、一番美味しかったのはデザートでした。前の晩のデザートが「温かい甘い粥」みたいな中途半端な味でがっかりしていたのですが、微妙にマンゴーの味付けのしてあるココナツミルクの中に、タピオカ、マンゴー、ピンクグレープフルーツの実のほぐしたのが入っている冷たいデザートは、見た目も可愛いし、今までアジアの国々で食べてきたスイーツの中でダントツのお味でした。日本でも、モンスーンカフェあたりで扱ってくれないかしら。
 その日は、ペニンシュラホテルのチョコレートと、騙されたつもりになって「シャッチョーさんが自分のワイフをいつまでも若くしとくために研究して、93億円の豪邸建てちゃうほどボロもーけ」した真珠の美白クリームと(これは同じようなものがシンガポールでも売ってる。たぶん中国でも売ってる)、あと何か、ゲートウェイというショッピングモールで色々買ったのですが忘れました。いつの間にか所持金半分になってるんだけど、何買ったんだろう?
 夜は広東料理でした。これもまた昨日の潮州料理とあんまり差が判りません。ただ、脂っこいけど、味が濃くて昨日より美味しゅうございました。特に白身魚のフライの甘辛ソース和えみたいなのが絶品でした。なんていう料理なのか調べればよかった。そして今度は水仙ではなく、物凄く濃いお茶を出してくれました。

 朝ご飯はホテルのバフェでした。なんだか食事のことばかり書いている気がしますが、今日は食事だけでは終わりません。なんといっても、今日はマカオに行くんですよ、マカオ! 以前テレビの企画でカバちゃんが泣きながらマカオタワーの一番てっぺん(屋外)に登り、「マカオタワー! オカマが制覇したわよ!」と言わされていた、あのマカオです。
 マカオは、香港から高速船で約1時間。カバちゃんのオカマの説明だけでは申し訳ないので簡単に説明すると、マカオは元ポルトガル領で、現在は「中華人民共和国澳門特別行政区」だそうです。中国と陸続きだけど、中国政府からは支配されていないということだそうです。すっごく小さな土地なのに、その中に世界遺産がゴロゴロあります。詳しくは「地球の歩き方」をご覧ください。
 ここではガイドがマカオ専門のガイドに代わります。驚くほど日本語の流暢な年配の女性でした。身の上を聞いてみると、やっぱり元々は日本人でした。ちょっと安心。
 聖ポール天主堂跡(世界遺産)を見て、その横にある旧城壁(世界遺産)を見て、暫く歩くとセナド広場(世界遺産)です。どこもかしこも世界遺産。私一昨年、片道5時間歩いて屋久島の縄文杉(世界遺産)を見に行ったんですが、なんかこんなにあっけなく「世界遺産ですよ」って言われると、ちょっとありがたみが薄れる感じがします。
 ただ、町がもう、半端なく可愛いです。廃墟みたいなおんぼろのアパートメントすら可愛い。今まで移住するなら何処が良いか、ナンバーワンはニューカレドニアのヌメアだったのに(これも町が可愛いから)、今回のマカオ観光で、トップにマカオが踊り出ました。だって、町が可愛い上にエッグタルトが美味しいんですもの。ヌメアは食べ物が不味いんですもの。

 お昼ご飯を食べたあと、ホテルリスボアという大きなホテルのカジノ見学に行きました。そしてその地下で、お金持ちをゲットしようと待機している綺麗な女の子たちを眺め回してから外に出て、まだ建設中のウィン・マカオの周りを、車でぐるっと一周してもらいました。
 ていうか、すごいですよこれ! 広いなんてもんじゃないですよ! なんだこりゃ!
 ホテルはもう既に外側ができていました。ラスベガスにある同名のホテルと全く同じ形で、縮尺を小さくしたのだそうです。ガイドの話によれば、9月オープンだということでした。泊まってみたかったー! でも、カジノがまだ。いったいどんだけの大きさのものができるのか計り知れないほど広大な土地が、全てウィン・マカオのカジノ建設予定地です。
 ちなみに、通常カジノの従業員は、ホテルの従業員を含めて5000人必要なんだそうです。リスボアの従業員がそのくらいなんですって。現在開業準備をすすめているウィン・マカオでもリクルーティングを行っていて、その殆どがヘッドハンティングらしく、他のホテルの優秀な従業員や、カジノのディーラーをたくさん引っ張っていってるそうです。良いなぁ、サービスも良さそう。しかも海沿いだから眺めも良いだろうし、マカオ直行便でマカオに来た場合、空港のある島から橋を渡ってすぐのところに位置しています。交通の便も良し。
 ああ、いつかたくさんお金持って泊まりに来るからね! それまでにカジノもできててね!
 マカオのお菓子と、幸せを呼ぶニワトリグッズ(カラフルで可愛い)をしこたま買い込み、香港に戻りました。今日の夜ご飯は北京料理。ちょっともう、胃もたれが激しすぎたので、キャンセルして軽めのカフェか何かで食事しようと思ったのですが、近隣にそんなコジャレたものはなかった。
 しかし、食べてみると意外と入るものです。北京ダックも美味しかったし、卵スープもお腹に優しいお味。興味本位で「スイカジュース」を飲みました。「もう食べるのヤダ」とか言っていたお母様も、なんだかんだ言ってほぼ完食してました。
 食事が終わった後は、元々香港に住んでいて、現在はシンガポールに住んでいる友人K・A氏が出張で香港に来るというので、会うことにしていました。宿泊先のホテルの名前と電話番号だけ控えてきていて、地図で調べたら私たちが宿泊してるホテルの隣でした。
 申し訳ありませんが、お母様には一人ホテルに残っていただき、私はK・A氏とホテルニューワールドルネッサンスへ。「地球の歩き方」情報では、すごく夜景の綺麗なレストランがあるんですって。実際そのお店に行ってみたら、海沿いに横に長いレストランの窓は全面ガラスで、本当にすごく綺麗でした。K・A氏曰く、香港の夜景は上から見るものではなく、下から眺め上げるものなのだそうです。なるほどー。そのレストランも4階という低層階です。下から見上げた方が、なんだか迫り来るものがありました。初日に行ったヴィクトリアピークでは、実は大雨が降ってしまったのです。雨に霞む夜景も綺麗だけど、あんまり情緒がありません。情緒より何より傘がなかった。
   7年ぶりの再会を果たしたK・A氏が、なぜシンガポールに移ったのか話してくれました。SARSのせいでした。空港が閉鎖されるほど、そして香港の住人を海外が受け入れてくれなくなるほどひどい影響をもたらしたあの伝染病から逃げるように、空港閉鎖の2日前にシンガポール便に飛び乗ったのだそうです。あの病気のおかげで香港は変わった、と言っていました。SARS以前、香港はもっとエネルギーに溢れる混沌とした街だったのだそうです。SARSによって人々が皆マスクをかけ、街じゅうが消毒され、対策のため街のヨゴレは除去された。実際、一瞬シンガポールと区別がつかないほど今の香港は綺麗です。九龍城砦もなくなってしまいましたしね。

 日付が変わる前にホテルに戻ると、お母様は既に寝てました。私も早く寝なきゃ。明日は飛行機が午前便なので、早いのです。

 あっという間に帰国の日がやってまいりました。たったの3泊4日なのに、ものすごく濃い旅をした気がします。いつもの海外旅行だと、ホテルに着いてビーチに行ってビール呑んで寝てるだけ、という、別にそれ湘南や熱海でも良いんじゃないの? なパターンなので、ここまでアクティブに過ごす海外旅行は初めてで、結構新鮮でした。
 海外旅行初めてだから恐い、とか言ってたお母様も、結局何が恐かったんだろう、という感じでケロリとしていました。
 行きに美味しかった機内食が楽しみで、実際帰りも期待を裏切られませんでした。正式な名前は判りませんが、白身のお魚ご飯。やっぱり美味しい。しかも、機内のエンタテイメントもステキなラインナップでした。日本語字幕がないのが寂しいけど、映画観ながら機内食食べて、ぐーぐー寝てたら成田に着いてました。
 やっぱり香港近いです。
 今回、ガイドについて色々見て回って、ある程度街の様子は掴めたので、次回は行けなかったところを廻りたいと思います。香港って、一回行っただけじゃたぶん満足できないところなんだと思う。ペニンシュラに泊まって、猫カフェに行こう。そしてマカオでカジノ行ってぼろ儲けしよう。ルーレットならわりと当たる自信があります。で、儲けたお金でマカオに可愛いおうちを買うの。

 夢は尽きないので、とりあえず私は細々と小説を書いて、いつかマカオにおうちが買えるようになるまで、頑張っていこうと思います。
 


宮木あや子(みやぎ・あやこ)
1976年11月4日神奈川県生れ。東京都武蔵野エリア在住。趣味は着道楽と海外旅行。好きな作家は三浦しをん、恩田陸、嶽本野ばら。

ホームページ http://amiya.fruitblog.net/